LEADERS BLOG

リーダーのためのブログ

2014.02.05

協創の現場から人材戦略・人材開発

「脱・資質論の経営幹部育成」 第3回

経営者としての「芽」を、組織の成果に結びつける規範づくりを

「資質論」に頼らない中小企業の経営幹部育成の第3回目。今回は、若手社員の時期から経営幹部としての姿勢・感覚を育む「環境」づくりについて考えます。

―前回、経営幹部の育成にあたり、早期から「志・夢」「責任感」「こだわり」の姿勢と「仕事をゲームのように面白いと思う感覚」を身に付けさせる中で、「教える」という概念を取り払うという話がありました。もう少し詳しく教えてください。
上司・先輩が後輩に「今ある仕事」を教えるのではなく、「これからの仕事」を共に見出していく時代
 
「教える」とは「知っている人」が「知らない人」に伝えたり、身に付けさせたりする行為です。
 年功序列のシステムの中で、先輩・上司が後輩に対し「今ある仕事」を教えることは成り立ちますよね。また職人仕事など、技術の伝承が重要な業種は「教える」ことで組織が存続します。
 けれども、何回もお話ししているように、多くの企業が今求められているのが、上下関係なく、互いに未知の領域を切り拓き成長機会を見出すことです。ですから近年は経営者が、若手社員に対し、将来の可能性を拓く「これからの仕事」への自発性を切実に求める場面が増えているように感じます。

―若手社員・現場社員の自発性を促すというと、小集団活動などを想起しますが…。
「コレは仕事なんですか?」と社員が問う会社に、経営者は育たない
 小集団活動は自発性を育む機会として有効ですが、どちらかというと「今ある仕事」への自発性を求める改善活動という印象が強いですよね。
近年、私どもでは会社や部署として何か新しい領域に挑戦しようとする際に、自発性を促す取り組みとして小集団活動を導入することをお勧めしています。が、実際にミーティングに入り若手メンバーに声を聞いてみると、会社の将来を考えることについて「これって仕事なんですか?」などと、経営者の思いとは別の声があがってきます。

 集団の中で長年培われてきた社内の暗黙の了解やルールを「規範」といいますが、「現場は日常業務(オペレーション)が仕事の全て」という規範が強い会社では、志や夢で皆を鼓舞し、仕事をゲームのように楽しみ、結果が出るまでこだわりぬくような企業家精神を備えた経営幹部を育てていくことは難しいですよね。

―確かにそうですね。
自発性を育む仕掛けを導入しても、変革を受け入れない社風が逆効果をもたらす
 小集団活動に限らず、若手の自発性を育む仕掛けはたくさんありますが、組織に存在する規範によって、逆の結果を招くパターンも聞きます。


 私どもが協働しているあるITビジネス業界の社長に聞いた会社の成り立ちについての話は、象徴的でした。バブル時期の、多くの企業が多角化経営を志向していた時に、ある大企業内で新規事業立ち上げにチャレンジしたものの、提案が結果的に採用されなかったため、チームメンバーを誘い退社・独立して会社を立ち上げたそうです。
 メンバーの方々は、もともと総務やシステム部のいちメンバーだったそうで、普段はルーティンワークを行っていたのが「新規事業立ち上げ」というこれまでにないチャレンジをしたことで、その面白さに目覚めてしまった、と。「自分たちのアイディアが採用されなかったからといって、ルーティンワークが延々と続く、元の日常には戻れなかったんです」とその社長はおっしゃっていました。

 

―それがまさに「ゲーム感覚」ということですよね。辞めてしまうのは、非常にもったいないことですね。
 
仕組みを導入した会社は有名企業で、その中でご本人もそれなりの成果を出して認められているのに、自分の仕事が会社の成長に結びつかないことや、成長のステージが見えないことにストレスを感じ退職してしまう。もちろんこの仕組みをうまく活かしている人もいるでしょうし、実際には企業内に次の経営者が多く育っているかもしれません。

 けれども、人生における仕事の意味や価値が変わった時、それを組織内でどう活かすのか。
 周囲がその変化を認め、組織の成果に結び付けさせようとする社風・規範がなくては逆効果になってしまいかねないということはぜひ覚えておいていただきたいと思います。

―逆に、良い規範が企業家人材を育てている事例をどうみますか。
 
ローソンの新浪社長を輩出した三菱商事は、「時には独立・退社するほど企業家精神の旺盛な社員をポジティブに認め、真剣に経営者を育てている」という社風・規範を内外に示した好例だと私は受け止めています。楽天やサイバーエージェントなどもどんどん新規事業を立ち上げ、若手にそのマネジメントを任せているとの記事をビジネス誌などで目にしますが、今日の成功は明日の成功を保証しない、新しい挑戦をどんどんしろという会社や業界全体の危機感と成長の貪欲さを挑戦行動に変えていく「規範」があるから成功しているのでしょう。

―そうですね。育成にあたっては「仕組み」だけを取り入れてもはじまらない、本人だけの才覚や努力だけでも成り立たない…「規範」から変えていくことの重要性がわかりました。とはいえ、実際に変えるのは難しく、時間がかかる仕事ですよね。
規範変革は、時間がかかるものと諦めてほしくない
 
長年培ってきたものですから、簡単に「こうすればすぐに変わる」ものではありません。けれども長い時間をかけないと変わらないか、といえばそんなことはありません。

 会社更生法の適用から2年で営業利益2000億円というV字回復を遂げた、稲盛会長のJAL再生は規範から変えたわかりやすい事例ですよね。「ナショナル・フラッグ・キャリアは潰れない」「コストの必要性を疑わない」「顧客よりマニュアル」など官僚的な規範が蔓延していた組織を短期間で大きく変えてしまいました。「フィロソフィー」をベースに、組織レベルのものの見方・仕事の捉え方を辛抱強く繰り返し説き、それを小集団での採算管理の仕組みと連動させ成果を出しました。

 少し古くなってしまいますが「ゴーン改革」も、社内だけでなく調達先も含めた規範変革で成功した事例です。大胆な目標数値を明示し危機感を醸成し、「コミットメント」を求めた。それまでは長年「無理」とつっぱねていた大幅なコスト削減目標が「必ず成し遂げなくてはいけない目標」と捉え直され実行・工夫する風土になりました。

 

―時間の長短ではないのですね。
 
そう、「時間がかかるし、ウチは無理」とは捉えてほしくないのです。そのために必要なのは健全な危機感・問題意識です。まずは経営者に限らずリーダーは、恐れずに社員に「自社や自部署の問題は何か」と問うことからはじめてみてはいかがでしょうか。会社の将来の可能性を感じながらも、問題意識を持っているのは、会社でこれから20年・30年と仕事をしていく若い人たちです。彼らの意見の違いを認め、受け入れ、時には自己否定を伴っても活かす覚悟が問われています。

次回は「経営幹部が育つ」規範をつくる機会・場やリーダーシップについて考えます。

 

この記事の執筆者

臼井 弥生

代表取締役社長