LEADERS BLOG

リーダーのためのブログ

2019.07.10

エグゼクティブ・アイ

見えないものの価値

  「2000万円問題」で、にわかにNISA口座の開設や計画的な資金作りなど「自分年金づくり」活動に着手しはじめた若者が増えているという話を聞き、この出来事は何だったのかと、思わずいろいろな視点で勘ぐっている。

 老後の生活を年金だけで成立させることが困難であることは、もう何年も前から報じられてきたことだし、既に多くの人々は国の制度だけに頼ることなく、自己責任で生活設計を考えているはずだ。国会では、問題を大きくさせ、犯人捜しに終始し、これからの超高齢社会とどう向き合っていくかという話には一向に発展しない。本当に嫌になる。老後生活への不安という「気」が、人をこれまでと異なる行動へと誘っている。
 一つの情報が目には見えない「気」を作り出し、その気が社会に大きな影響を与える。
 会社を良くするためには、まずは業績アップ。そのためには有効な戦略を立てそれに人々を動員し、成果を期待する。大きく推進できているところもあればそうでないところもある。その本質的な違いは何か。それは、「企業文化」であるということを、私は色々なところで語っている。 「社風」「風土」「プロセス」という言葉を用いながら、それぞれの会社に存在する「企業文化」の存在とそれをマネジメントすることの重要性を訴えている。

  ドラッカーは、「culture eats strategy for breakfast」という名言を残している。企業文化は、戦略を飲み込むほどに勝るものだということである。言い換えれば、企業文化が望ましい状態でないところに、どんなに優れた戦略を講じても大した成果は得られないということだ。社員が作り出す「気」と社員に共有された行動パターンの蓄積が文化となるのだ。
 優れたヒット商品が出ると、目に見える商品そのものが話題となるが、優れた企業文化を有している企業は、自らのヒット商品を凌駕する新たなヒット商品を生み出し続けている。生み出し続けることができるのは、組織として新たな価値を生み出す能力があるということであり、その力を創り出しているのは人々の能力を余すことなく発揮させることができる企業文化を有しているということなのである。

 企業文化の重要性を理解し経営を実践しているところでも、理念やビジョンや行動基準を策定し、「わからせる」「実行させる」ための「ルール」をつくるというパターンを繰り返し、期待する成果が得られないとさらなるルールや制度を創り続ける。しまいには、マニュアルやルールばかりが先行して、社員はそのルールにがんじがらめになって本来の力を発揮できないという悪魔のサイクルに陥っている実例に触れることがある。
 過去、素晴らしい企業文化を有していた企業でも、業績そのものや戦略、それを推進する課題や仕事にマネジメントの関心が偏ってしまい、結果として業績は達成しても社内には大きな疲弊感が漂い、主体性や挑戦心が希薄になってしまい、企業文化が劣化していることに気づかないまま、次なる課題を追いかけるということになっているケースもある。

  企業文化を形成するものは、細かく言うと色々あるが、大きくは「価値観」と「行動規範」である。その会社が何を大切に考えているかということと、その価値観に基づいて人々が「ウチの会社では、こういうことが当たり前なのだ」と共有してとる行動スタイル=暗黙の了解のようなものである。この二つが常に作用しあって、企業文化は形成され、人々の考え方や気持ちのベースとなっているため、時代や環境や状況に合わせて、変化し続けるのである。
  私が幼いころの日本国の文化と現在の文化。違和感を覚えることもあるが、日本ならではと感じられる良いことがしっかり伝承されていることもたくさんある。インバウンド需要が伸び続け、海外旅行者のリピーターが増加しているのは、観光・買い物・食事といった目に見えるもの以上に「親切」「安全」「清潔」「きめ細かさ」「丁寧」「快適」といった私たちが大事にしていることを、見えるものを通して感じてもらえ、日本という文化の体験価値を見出してくれているのだと思う。
 
  企業文化は、企業にとっての「無形資産」である。財務諸表には掲載されていないが、その企業の価値の永続性や将来性を測る大事な資産である。空気と同じように目には見えないもののほうがより価値があり、それを理解し大切にすることで、目に見える価値が生まれるのだと思う。
 人々の頭や心の中に会社の何が存在し、それが社員にどのような影響を与えどのような行動になっているのか、そもそも会社という存在そのものが濃いのか希薄なのか、目には見えないものを見ようとする経営が求められている。

この記事の執筆者

臼井 弥生

代表取締役社長